2014年03月13日

国民の参政権から浮かび上がる自由民権運動の真実と日本国憲法の弱点-明治流憲法学奥義秘伝の原稿

 筆者は大日本帝国憲法と明治の自由民権運動を代表する交詢社系の憲法私案を比較して、意外な事実に遭遇した。それは参政権に関して帝国憲法は交詢社系憲法私案より手厚く民権の拡大を擁護していることである。

枢密院帝國憲法草案第三十五條 衆議院は選挙法の定むる所に依り公選せられたる議員を以て組織す

【枢密院に提出された第三十五條注解】

 衆議院の議員は、其の資格と其の任期とを定めて、広く全國人民の公撰する所を取らんとす。本條議員選挙の制規を以て之を別法に譲る者は、蓋、選挙の方法は時宜の必要を将来に見るに従い、之を改正し之を増補するの便を取ることあらんとす。故に憲法は其の細節に渉ることを欲せざるなり。

 衆議院の議員は総て皆、國の代議士たり。而して衆議院選挙の法に選挙区を設くるは、代議士の選挙をして全國に普通ならしめんとする目的に外ならず。故に代議士は即ち國の人民を代表する者なり。而して其の所属選挙区の人民の為に一地方の委任使となり其の依嘱を代行する者には非ざるなり。

【枢密院に提出された第三十五條参照】

葡(ポルトガル)第三十四條 代議士院は公選にして有期たり
増補第四條 代議士を命ずるは直接選挙を以てす
第九條 選挙法は左の條件を規定すべし
第一 選挙の程式及王国の人口に比例する代議士の数
第二 代議士と兼務すべからざる職務
第三 國民公務に服する為に代議士に選まれざる場合
第四 王國大陸の諸州王國附近の諸島及海外の所属地に於て選挙税額の証明を成すべき方法及程式
第五 選挙人たるべき年齢を補足し及選挙税額の証明を免ざるべき大学校の品級

仏(フランス)千八百三十年第三十條 代議士院は将来法律に従て設くる所の選挙会より選挙したる代議士を以て編成すべし

白(ベルギー)第四十九條 選挙法は人口に従て代議士の数を定む此の数は人口四万に付一員の比例を越ることを得ず又選挙法は選挙人たる為の要件及選挙の方法を定む

伊(イタリア)第三十九條 代議士院は法律に定めたる選挙区より選挙したる代議士を以て編成す

荷(オランダ)第七十七條 第二院の数は人口四万五千に付一員の比例を以て之を定む
選挙の権に係り遵守すべき他の條則は選挙法を以て之を定む

丁(デンマーク)第三十二條 代議士院の数は凡そ人口一万六千に付一員の比例とす選挙区及選挙の方法は選挙法を以て之を定む各選挙区は選挙に応ぜんことを求むる候補人の内に付一員を選挙す

西(スペイン)第二十七條 代議士院は選挙会の法律に依り定めたる規程に循い選命する所の議員を以て編成す但し人口五万に付少くとも代議士一名を出すべし
代議士院の議員は全國人民の代表人たる参照

仏(フランス)千七百九十一年 代議士任命の部第七 各州より選派する代議士は一州の名代にあらずして全國民の名代たり故に州より代議者に委託を付することを得ず

瓦(ビュルテンベルク)第百五十五條 代議士は全國の代議士にして一撰挙区の代議士と看做さず(自第三十二條)

伊(イタリア)第四十一條 代議士は全國民の名代にして之を選派したる一州の名代に非ず
選挙人は代議士に一つの委托を付することを得ず

荷(オランダ)第七十四條 国会は荷蘭國民を代表す

普(プロイセン)第八十三條 両院の議員は全國人民の名代たり
議員は其の自由なる信心に従て発言し嘱托及訓令を以て拘束せらるるものに非ず

丁(デンマーク)第五十六條中 國会の議員は専ら自己の良心に従い選挙人の訓令に従わず

墺(オーストリア)國会憲法十六條中 代議士院の代議士は其の選挙者より訓状を受く可(べか)らず

独(ドイツ)第二十九條 國会の議員は全國人民の名代たり嘱托及訓令を以て拘束せらるるものに非ず

瑞士(スイス)千八百四十八年第七十九條 両議会の議員は訓令なく発言す

 枢密院帝国憲法草案第三十五條は、金子堅太郎の回想録によると、大日本帝国憲法の起草原則第三項および第四項に基づいて起草されたものであり、枢密院帝国憲法制定会議では、無修正のまま可決され、明治天皇の裁可と公布を経て、大日本帝国憲法第三十五條となった。

【交詢社系の私考憲法草案(明治十四年五月二十一日郵便報知新聞社説、カッコ内は交詢社の私擬憲法案)】 

第五章 右 院〔第四章 國会院〕

第三十七條 右院議員は全國人民中選挙権を有する者の公撰する所にして四年間其職に在るものとす〔第四十條「國会議員は」以下同じ〕

第三十八條 右院議員の撰挙区は各州を以て一区若しくは数区に別ち人口八萬人毎に一人の割を以て公撰するものとす但し八萬人に満たざる端数四萬人に満る分は同じく一人を公撰し四萬人に満たざる分は之を除くべし但し一州を成すものにして人口二萬に満る分は一人を公撰すべし〔第四十一條「國会議員の」以下同じ〕

第三十九條 人口二萬人以上の都市は別に一選挙区となし一区二萬人以上四萬人以下は各一人を公選し四萬人以上八萬人以下各二人を公選し八萬人以上は六萬人を増す毎に各一人を公選すべし〔第四十二條〕

第四十條 右院議員選挙人名調査の期限に其撰挙区に於て郡村は地税五円以上を納むべき土地を所有し若しくは價直金二百円以上の所有家屋に住居し人口三十以上の都市は地租村二円以上を納むべき土地を所有し若しくは價直金二百円以上の所有家屋に住居し又は價直金四百円以上の家屋を既に十二ケ月借住して其年齢二十一歳に達したる男子は左に記載する者を除き総て其の撰挙区内の撰挙人たるの権を有すべし

処刑中の者
嘗て重罪に処せられ未だ政権を復せられざるもの及身代限の処分を受け未だ弁償の義務を経えざる者
白痴及風癲を病む者
日本国内に住居せざる者
府知事県令及右院議員選挙掛
神官僧侶〔第四十三條「國会議員」以下同じ〕

第四十一條 日本國民に生れ年齢満二十五歳以上の男子は左に記載する者を除くの外凡そ何れの撰挙区を問わず其被候補と為り右院議員に撰挙せらるるを得べし但し府知事県令郡区長及右院議員撰挙掛は其撰挙区内に被撰候補たるを得ず

処刑中の者
嘗て重罪に処せられ未だ政権を復せられざるもの及身代限の処分を受け未だ弁償の義務を終らざる者
白痴及風癲を病む者
日本国内に住居せざる者
判事及判事補
神官僧侶〔第四十四條「國会議員に撰挙せらるるを」以下皆同じ〕

第四十二條 各省長次官内閣顧問侍従長及諸寮長を除き其他の官吏にして右院議員に当撰したる者は其官を辞すべし
又右院議員にして以上の諸官を除き其の他の官吏に任ぜられたる者は議員を辞すべし〔第四十五條「國会議員に」「國会議員にして」以外皆同じ〕


 我が国は、大日本帝国憲法の特徴-伸縮自在の運用性(フレキシビリティ)を活用し、帝国憲法の下で衆議院議員選挙法の改正により普通選挙と女性参政権(1945年12月17日)を実現した。

 しかし交詢社系の私考憲法草案によると、我が国が右院(イギリスの庶民院、日本の衆議院に相当)に対する国民の選挙権被選挙権(参政権)を貧民や女性に拡大するには、憲法の改正が必要であった。
 
 交詢社系の憲法私案は帝国憲法に比べて運用の柔軟性を欠いており、大日本帝国憲法は交詢社系の憲法私案の欠点を克服し、自由民権運動を代表する憲法案よりも参政権の拡大を容易にしていたのである。

 そして残念ながら、占領軍が我が国に強制した日本国憲法は、交詢社系の憲法私案と同じく伸縮自在の運用性を欠いており、国家の危機に対して極めて脆弱なのである(詳細は、二年連続の疫病選挙-大日本帝国憲法の起草原則が告げる日本国の危険)。

<マッカーサー占領軍憲法解釈学からの覚醒>

 戦後の我が国では、帝国憲法違反など13の無効事由を抱える占領軍憲法(日本国憲法)が有効な最高法規として半世紀以上まかり通っている。

 これこそまさに異常中の異常事態であり、これを正常化して、立憲主義の敵である革命肯定論(違憲改正の憲法を無効とせずに新憲法として有効とすること)を否定し、適法過程(due process of law)を尊重する国民精神の回復と再確立を図り、自由の源泉の一つである立憲政治を防衛することこそ、真の戦後民主主義の克服超越であり、真の戦後レジームからの脱却である。

 我々が肝に銘じなければならないことは、革命肯定論によって初めて正当化される憲法典を支持する護憲勢力は、革命に対して法理的に抵抗できずに(違憲の憲法改廃を無効とは主張できない)憲法典を失う悲劇を免れないこと、そして我が国は、革命が繰り返される国内の混乱の中で国体を一度失ったならば、もう一度これを再生することは不可能に近いということである。

 今後も我が国体は、百年に一度あるかどうか分からない国家と民族の危機に備えて、他の国が持っていない日本民族固有の財産として大切に保存され、我々の子孫に継承されなければならない。
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posted by 森羅万象の歴史家 at 20:00| 大日本帝国憲法の真髄 | 更新情報をチェックする