2016年08月16日

保守主義の哲学を教えてくれる宮脇昭著「命を守るドングリの森」

 かつて日本列島は大部分が自然の森で覆われていた。今でも緑が多いと思われている。しかし宮脇昭氏によれば、現実には土地本来の緑、ふるさとの森は音も立てずに消滅しつつあり、現在の日本の緑は土地本来のものから懸け離れた、いわゆるニセモノであるという。

 いのちを守るドングリの森は、われわれ日本国民に、日本各地の鎮守の森に残る「潜在自然植生」を活用し、自然が数百年の歳月をかけて育む本物の森を僅か15~25年で再生する方法を教えてくれる。

いのちを守るドングリの森(宮脇昭著/集英社新書/2005年初版発行)の目次

序章 ドングリ苗を植える
1植樹祭
2木を植える目的
3植樹に参加する人たち
4なぜ、ドングリの苗か

第1章 森と人間生活
1森と私のかかわり合い
・周り中、緑
・学問の対象としての緑
・生態学にのめり込む
・現存植生と潜在自然植生の違い
・森の見分け方
・日本各地のマツ、スギ林
・ダイナミックで安定した本物の森
・都市に生活して

2命を守る鎮守の森
・阪神淡路大震災
・ふるさとの森の軽量化できない役割
・体感するふるさとの森
・日本の自然保護の歴史
・自然保護から緑環境再生へ

第2章 植生の研究
1生物圏と植生
2生物圏における人間の位置
3植生と環境
・外因:環境
・内因:社会的な掟
・競争力の強弱と分布
・共生
4植生の区分
・相観的な区分
・優先種による区分
・植物社会学的な群落区分-種の組み合わせによる
5植生の空間的配分
・水平的な配分-植生図
・時間的な配分-遷移
6日本とアジアの植生
7ヨーロッパの植生
8アメリカの植生
9現在の植生学
10森づくりのステップ
・植栽計画
・樹種の選定
・移植を可能にしたポット苗
・種子(ドングリ)集め
・播種の仕方
・ポット苗をつくる
・植栽対象地の準備
・植え方-植樹祭
・植栽後の管理
・森の成長に沿った対応

第3章 ふるさとの森づくり
1斜面の森
・斜面保全
・これまでの実例
2都市・産業立地の森づくり
・産業立地
・道路沿い
・ニュータウン
・公共施設
・商業施設

3水辺の防災・環境保全林づくり
・海浜
・ダムと河川

4鎮守の森、教会の森
・多神教のもつ意義
・二十一世紀の鎮守の森

第4章 世界の森づくり
1東南アジア
2ブラジル・アマゾン
3中国とモンゴル
4人類の未来と森づくり

エピローグ

 潜在自然植生とは、現在の人間の影響がすべてストップしたときに、そこの自然環境の総和が終局的に支え得る群落、植生のことである。この潜在自然植生は鎮守の森に残っており、鎮守の森を構成する多様かつ多層な樹種を植えることが、管理費がかからず半永久的に持続し、多彩な防災・環境保全、水源涵養の機能を果たす本物の森づくりであるという。

 防災・環境保全林、水源林を形成する際、世界中の木を試験栽培して火にも風にも乾燥にも強そうなものを選び、それを植えるというアプローチがある。これは一見科学的かつ効果的だと思われるかもしれないが、机上の論理にすぎない。

 初めの五年か十年はうまくいっても、その後それらの木々が経験したことのないような台風や日照り、地震、火事が起これば、対応できないことが多い。

 日本では自然の揺り戻しとして地震や台風が周期的に襲う。最も間違いないのは、それぞれの地域の人たちが長い歴史の中で試行錯誤した結果、屋敷林や社寺林として残してきている、土地本来の森、すなわち潜在自然植生の主木群である。

 これらは何百年、何千年の間、台風にも地震にも火事に耐えて生き延びている。したがって、潜在自然植生の主木こそ、防災、環境保全林、今各地で叫ばれている水源林形成の主役として選ぶべき樹種群である
(いのちを守るドングリの森112ページ)。


 宮脇昭氏の提唱する本物の森づくりは、保守主義の哲学や軍事学の兵要地誌に通じており、筆者は本書を読んで大いに感激し、且つ自分の独善に恥じ入った。

 筆者が漠然と描いていた森づくり構想は、中山間地の荒廃した里山に、アーモンド、菓子クルミ、チョコレートの木、サトウカエデ(メープルシロップの木)、トチノキを植えて「御菓子の森」を造れば、春には桜に似たアーモンドの花が里山を覆い、秋にはチョコレートの木とサトウカエデの紅葉が里山を真赤に染め、胡桃とアーモンドとハチミツが採れるのではないか、というものだった。

 しかし潜在自然植生を無視する人工林は、資金と人手がかかるだけでなく持続しないという。過疎に悩む中山間地の再生は、あくまで潜在自然植生の主木を植えつつ、潜在自然植生の許容範囲内で、観光資源となる美しい景観を生み、農産物となる果実を育む樹種を選定しなければならないということである。

 いのちを守るドングリの森は、1.5メートルほどの幅の土地にも本物の森をつくる方法を読者に教え、家の庭造りや神社の参拝を楽しくしてくれる森林再生の参考書である。
【関連する記事】
posted by 森羅万象の歴史家 at 21:00| 憲法学の名著と迷著 | 更新情報をチェックする