2015年01月23日

橋下徹は不要!日本国に適合する上院の構成

 帝國憲法草案第三十四條は、枢密院における第一審会議第三読会と第二審会議第二読会によって「貴族院は貴族院令の定むる所に依り皇族華族及勅任せられたる議員を以て組織す」と修正された。この修正案が明治天皇の御裁可を得て大日本帝國憲法第三十四條となった。

 枢密院帝國憲法制定会議の審議では、貴族院議員の資格選任特権等が法律ではなく勅令によって定められることの是非が争点となった。

 山田顕義は、

「貴族院議員の資格、選任、特権は勅令を以て定むべきものに非ず。法律を以て定むべきものなり。故に資格選任特権は法律を以て之を定むと修正せんことを望む」

と主張し、勅令説に反対した。三條実美、河野敏鎌、東久世通禧、鳥尾小彌太が直ちに山田説に賛成したが、森有礼は法律説に反対し、原案の勅令説を支持した。そこで佐野常民が、

「衆議院議員の選挙は法律に依り、貴族院の選任は勅令に依る。両院選挙方法の異なる理由を説明あらんことを望む」

と起草者の井上毅に訊ねたところ、井上は次のように説明した。

「貴族院議員の資格選任特権は法律に依らず、勅令を以て定むる所以は、貴族院の組織は憲法に密接の関係を有するものなればなり。この憲法は欽定なるが故に、之に密接の関係を有する貴族院組織令は勅令を以て之を定め、なるべく欽定の性質のものに付属せしめんと欲す。

 然るにもし法律を以て之を定むるものとせば、一々民選議員の議決を経ざるを得ず。然らば即ち欽定の精神に背戻するものとす。

 法律を以て衆議院議員選挙法を定むる所以は、衆議院は人民の代議士より成立するものなれば、人民一般に関するが為、その選挙法は人民の集合体より成立する衆議院の議決に委ねざるを得ず。
 
 これに反して貴族院は皇室の藩屏にして、常に皇室に密接したるものなれば、下院をして貴族院の制度に容喙することを許さず。

 彼の千八百五十年に制定せられたる孛國(プロイセン)憲法においても、上院の組織は法律を以て定むるものなりしが、その後國会において、上院の組織を法律を以て定むるの不可をなることを発見し、終に憲法の正條を改正して勅令を以て之を定むることとせり。」


 帝國憲法第三十四條が貴族院の組織構成を法律ではなく貴族院令(勅令)に委ねる目的は、貴族院の組織構成に対する衆議院の容喙を排除することであった。

 貴族院(上院)の組織構成が、衆貴両院の同意を経なければならない法律に依れば、貴族院法の改正増補ごとに衆議院の容喙を招き、衆議院(下院)の意向に沿い変形し、やがて公選議院(衆議院)の欠陥を抑制する能力を喪失し、帝國議会は、マッカーサー占領軍憲法(日本国憲法)の規定する国会と同じく、議会二院制の形骸と化するからである。

 井上毅はそのことを例証するために孛國の憲政史を挙げたが、帝國憲法第三十四條の立法趣旨は、井上、金子堅太郎、伊東巳代治を統率して帝國憲法を起草した伊藤博文の座右の書「ザ・フェデラリスト」の法理論に合致している。

「政府各部門に、自衛のために同等の権力を与えるということは不可能である。共和政府にあっては、立法部の権能は必然的に優位に立つことになる。そこでこの不都合を修正するために、立法部を二つの議院に分割することが必要である。

 そして、異なった選挙方法や、異なった運営原理をもって、この両院をして、その立法機関としての共通の機能や、ともに社会に依存しているという性格の許す限り、できるだけ相互に関係のないようにしておく必要がある。」(ザ・フェデラリスト第51篇 抑制均衡の理論)


 なぜなら人民によって頻繁に選挙される定数の多い議院(下院)には、上院のような組織による制御を必要とする特有の欠陥がある。この欠陥を匡正(きょうせい)する上院は、それ自体がこの欠陥から免れていなければならないからである

 もちろん下院と異なる上院の選挙方法や運営原理は各国の慣習や歴史に依存せざるを得ないが、それらの具体的内容は、伊藤博文の座右の書「ザ・フェデラリスト」第62篇<上院の構成>第63篇<上院議員の任期>が詳述する以下の「人民によって頻繁に選挙される定数の多い議院に特有の欠陥」を抑制する能力を上院に付与するものでなければならない。

<公選議院特有の欠陥>

・党利党略に走り、度を越した有害な決議を行う。
・立法の目的や原理について、必要な理解と知識がない。
・不安定で、思いつきの政策を乱発し、自国の利益を他国の餌食にする。
・私欲に塗れ、国家の名誉を重んじない。
・重大な事態において責任が欠如する。
・議席を獲得するために有権者をだます。

 大日本帝國憲法下では、貴族院は貴族院令の定むる所に依り皇族華族及勅任せられたる議員を以て組織する(憲法第三十四條)。衆議院は選挙法の定むる所に依り公選せられたる議員を以て組織する(憲法第三十五條)。
 公選議院(衆議院)特有の欠陥を匡正する貴族院(上院)は、先ずその欠陥から免れるために、衆議院(下院)とは異なる組織構成と選挙方法を持つ。

 そして貴族院令(明治22年勅令第11号)に依れば、成年に達したる皇族の男子、満三十歳に達したる公侯爵、國家に勲労あり又は学識ある満三十歳以上の男子にして勅任せられたる者が貴族院の終身議員となり、公選議院特有の欠陥から免れつつ、この欠陥を匡正(チェック)し、政治権力の平衡(バランス)を保つのである。

 貴族(皇族と華族)の優れた素質は、1皇室とその家父たる天皇と親密な関係を有し上流の地位に居る、2世襲の家門として祖孫相承け史伝の精神を有する、3社会永遠の発達とその命運を同じくし、國家の全局とその休威を倶にする、4固より独立の気象を有する、である。

 この貴族が皇室の藩屏として貴族院に加わり、國家元首である天皇が自ら拒否権を行使しなければならない異常事態(愚劣極まりない法案の可決等)の発生を未然に防ぎながら、その優れた素質を活かして公選議院特有の欠陥を匡正するのである。

 しかし貴族世冑(家柄の良い家の子孫)の人は往々にして世故(世の中の事柄、世の俗事)に疎く、活発進為の気象に乏しい。そこで國の勲労学識富豪の人が勅任の議員として貴族院に加わり、貴族世冑の弱点を補いながら、公選議院特有の欠陥を匡正するのである。

 今の日本の政治は、公選議院特有の欠陥に覆いつくされているのだから、我が国は伊藤博文に倣い、ザ・フェデラリストの法理論に従い、参議院を公選議院特有の欠陥を匡正する権能と構成を持つ上院として再生しなければならない。

 これを怠ったまま我が国が日本國防軍を創設すると、公選議院特有の欠陥に覆い尽くされた政府と議会が國防軍をシビリアンコントロールすることになる。これは正に狂人に刃物を与える事態であり、それこそ公選議院特有の欠陥から國防軍の作戦用兵計画を防衛するための現代版の「統帥権独立の原則」が必要になってしまう。

 現在の我が国に必要な政治家は、参議院の廃止を叫ぶ橋下徹ではなく、生活苦に追われることなく、選挙活動に煩わされることなく、マスコミが煽動する世論に惑わされることなく、万巻の書を読み、億兆先人の叡智と経験の宝庫である日本の歴史を深く研究し、得意分野の学識を蓄え、四六時中一年中、ひたすら皇室国民ひいては日本国の将来を憂い、公選議院特有の欠陥を匡正する男女の上院議員である

 経験則を無視し、国政をデタラメな思いつき政策の実験場に転落させる政治家は要らない
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posted by 森羅万象の歴史家 at 01:00| 大日本帝国憲法の真髄 | 更新情報をチェックする